#辛くて二度と読めない本 そんなタグを見かけた。
どんな本だ?と思って流し見をしていた中にこのタイトルがあった。
あらすじを読むとBANANAFISHを彷彿とさせる予感があり図書館で借りることにした。
この本は売っていない!恐ろしいことに絶版だった。
返却日が迫り、手元に留めておくことができない今、この気持ちをどこかに記録しなければいつか私の中からボロボロと出ていってしまうかもしれない。
そんなわけで、この話の紹介と感想(エピローグの先について)を2つの記事に分けて書くことにした。
テリー・ホワイト 「真夜中の相棒」 初版1984年
舞台は1960年代後半〜70年代前半アメリカ
ヴェトナム戦争に突入し、モノクロとカラーTVが混在し、病院の待合室だろうがどこだろうがタバコを吸うことができる時代。二人組の殺し屋マックとジョニー。
いつもと同じようにターゲットの部屋を訪れたジョニー。
部屋の扉が開き、いつものようにターゲットを撃ち殺す。けれどその日、その部屋にはもう一人予定外の赤毛の男がいた。
ジョニーは淡々とその赤毛の男も撃ち、現場を後にする。
しかし、ジョニーが殺した予定外の男マイク・コンロイは潜入捜査をしていた刑事だった。マイクの相棒サイモンは、マイクの残した言葉「金髪の背の高い男」を必ず見つけ出すことを誓う。
坂を転がり落ちるような生活の中、互いを必要としていくマックとジョニー。相棒を奪われ、全てをかけ二人を追うサイモン。
もうこのあらすじだけで読みたくなるはず。本当に素晴らしい。
ネタバレしない程度の登場人物の紹介はこちら。
マック(アレグザンダー・マッカーシー)
190cm超えのすらっとした男。茶色い髪に緑の瞳、深みのある声をしたハンサムおじさん。酒と女とタバコが好きなポーカー狂。とにかくポーカー狂。そのポーカーをやめろ!
ジョニーと出会った時は35歳。軍人生活15年。
それなりに愛想が良く、面倒見がいい。ジョニーのことを「坊主」と呼ぶ。
自分のダメなところ、弱いところを分かっている。
殺しの窓口担当。資料の読み込み、下調べを行う。
ジョニー(ジョン・ポール・グリフィス)
185cmぐらいのすらりとした男。カールした金髪にガラスのような青い瞳の青年。
近眼でパイロット型色眼鏡をかける。
マックと出会った時は27歳。登場時点で戦争により精神が病んでいる。
他人が怖い。返事をしない。まるで子供のような言動。服を脱ぐ描写が多い!
ヴェトナムで自分に声をかけ、助けてくれたマックに懐いている。
マックが世界の全て。ダーツがめちゃ得意。
西部劇とテレビ、アイスキャンディー、ピザ、青い色が好き。
殺しの実行犯。正確に対象の額を撃ち抜く。
サイモン・ハーシュ
相棒マイク・コンロイを殺された刑事。茶色いカールした髪に青く鋭い目。妻子あり35歳。
ストイックな男。八年間パートナーを務めてきたマイクを本当に大切に思っている。勝手な主観だが、サイモンにとってマイクは太陽のような存在だったに違いない。
マイク・コンロイ
物語の中での登場は少ないがサイモンの相棒。赤毛に茶色の瞳。仲間にはワイルド・マイクと呼ばれる、悪党も処女も相手にするのは大得意。妻子あり。サイモンよりは若い。
この話は プロローグ、第一部〜三部、エピローグ という作りになっている。
プロローグは事件の発端
一部は時間を戻し、マックとジョニーのヴェトナムでの出会いから、軍をやめ二人の生活が始まり、殺し屋へと身を落としていく過程。マックの苦悩とジョニーという人物、二人の近づいていく距離が描かれる。
二部はサイモンの話。相棒を失った男が全てをかなぐり捨て、犯人の手がかりを探し、
一歩ずつマックとジョニーへ近づいていく様に興奮が抑えられない。
三部は非常に短い。本当に短い、60ページぐらい。けれど、この短さの中に三人の男たちの交錯する思いと動きがこれでもかと詰め込まれ、もう心が何度悲鳴をあげたか分からない。
そして結末とエピローグに全てを持っていかれる。
ハードボイルドでノワールみがある時点で、読む前からあらかたの想像はつくかもしれない。それでもこの3人の行く末を見届けたくなる。
3部に入ると、あまりにも残り少ないページを一枚一枚めくるたび、ハラハラする。そしてあたたかく切ない、優しい気持ちが時折駆け巡る。
この話が予想以上に私の中にずしんと来たのには理由がある。
私の家族は精神病院に入院していた。閉鎖病棟で、会いに行くと面会室に通された。
誤解のないように書いておくと、看護師も担当医もたくさんの人が支えてくれた。よりそってくれたし、一緒に問題を考えてくれた。
私は病気になる前の家族を知っている。よく話し、笑い、一緒に外に出かけた。
でも病気が酷い時の家族は外や人を怖がり、私は自分が誰と話しているのか不安になった。
ヴェトナムでああなってしまう前のジョニーはどんな人だったのか。それはジョニー自身が時折思い出す過去の話からしか分からない。
マックが他の人間にジョニーのことを説明する言葉がある。
適当に戦争をやり過すことのできる人間もいます
できない人間もいる。ジョニーは不向きだったんです
戦争の只中に身を置くことはなくても、たまたま自分の置かれた環境が不向きだった人間はいる。私はこのマックの言葉を読んだ時、心が傷ついて疲れ切ったたくさんの人が今この時代にもいると思った。
マックとジョニー、二人の交わす会話は切なくも優しい。
「僕は頭がへんてこりんなんですか?」
「いや、もちろんちがうよ。ときどきおかしな真似をするがそんなことはなんでもない」
マックはジョニーのことを “理解できるはずもない” と思いながら、隣にいる。
隣にいるが、同じ世界を見ることはない。お互いが相手を思いながら少しずつズレている。それでも一緒にいたいのだ。
私はマックの言葉や行動に自分の心が救われる気がする。
弱さに苦悩し、苛立ち、その中で必死に生きていく姿が愛おしい。
そして叶うなら、ジョニーにとって世界が怖くないといいのにと願ってしまう。